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新BizLabo通信第28号:経営デザインシートに関する一考察(10)ビジネスモデルとシステム思考

たとえば料理や車の修理、ビルの建築など、あるべき理想の姿を描き、そこに向かって手順を明確にすれば解決できる問題(ジグソーパズル型)は、目標達成や問題解決に向けた道筋を論理的分割することができる上に、分割された手順は相互に影響を受けないため、それぞれ独立した課題として対策を打つことができます。

 

一方、何かの解決策をとればとるほど状況が複雑していく類の問題(ルービックキューブ型)は、要素が複雑に絡み合っているため、原因を一つに特定できないばかりか、何らかの対策を打つと必ず、様々な方向に影響をもたらしていきます(参考文献「U理論入門」)。

 

ビジネスモデル・キャンバスには9つの要素がありますが、これらはそれぞれ独立して存在しているのではなく、複雑に絡み合い互いに影響を及ぼしながら存在しています。

ビジネスモデルのデザインは、ルービックキューブ型の問題なんですね。

なので、キャンバス上の9つの空欄をジグソーパズルみたいに埋めて「ハイできあがり」でもまぁいいのですが、さらに要素間の関係性もデザインしていくこともできるわけです。

 

その際に「システム思考」という考え方が応用できます。

 

システム思考とは、対象となる問題を1つのシステム(相互に影響を及ぼしあう要素から構成される仕組み)と捉えて分析する思考法です。

システム思考の詳細は他の文献等に委ねますが、ビジネスモデル・キャンバスでシステム思考を応用してビジネスモデルをデザインする際には、たとえば下図のようにキャンバス上にループ図を作って各要素の関係性をデザインすることができます。

 

ループ図には、バランス型ループと自己強化型ループがあります。

 

バランス型ループは、フィードバックの作用によって収束に向かうループです。

たとえば、営業マンの目標達成でいうと、最初に目標を掲げて営業を始めた頃は目標と実績のギャップが大きいので頑張って契約を取ってきますが、目標達成の見通しが立ってくると契約を取るよりも来期への種まきをしたり来期のノルマアップを恐れて目標値への帳尻を合わせたりして、結果概ね目標値に収束していきます。

 

一方、自己強化型ループは、フィードバックの作業によってシステムが強化(弱化)・拡大(縮小)していくループです。

たとえば、"自社ならでは"のユニークな顧客体験を提供すれば来店客数が増加し、多くの人が来店すると売り手を引き付けて品揃えが豊富になり、また、低コストや低価格での販売の仕組みを提供することでさらなるユニークな顧客体験を生み、ますます会社が成長していきます(参考:amazonコーポレートサイト「ナプキンメモ」より)。

 

バランス型ループも自己強化型ループも、各要素間にはプラスになっていく関係とマイナスになっていく関係がありますが、構造的にいうと負の関係性が奇数個ならバランス型ループになり、偶数個なら自己強化型ループになります。

 

ここで、経営デザインシートとビジネスモデル・キャンバスのビジネスモデルのデザインについて検討してみます。

 

経営デザインシートでは、y=f(x)です。すなわち、資源(x)←ビジネスモデルf(x)←価値y

「価値」は、「提供先(どんな相手に)」「何を」提供するのか、そして「提供先から得るもの」はどんなことかに分類されています。

「ビジネスモデル」は、「資源をどのように用いて価値を生み出すのか」「どんな相手と組んで」「提供先へのアクセス法」「知財の果たす役割」に分類されています。

「資源」は、「内部資源(知財)」「外部資源(知財)」に分類されています。

そしてこれらが、価値(y)=ビジネスモデル(f(x)、x=資源)の関係にあります。

 

他方、ビジネスモデル・キャンバスは、ビジネスモデルを「どのように価値を創造し顧客に届けるのかを論理的に記述したもの(書籍「ビジネスモデル・ジェネレーション」より)」と定義しています。

つまり、何の「リソース(KR)」や「パートナー(KP)」を活用してどのような「主要な活動(KA)」を実施することで「価値提案(VP)」 を創造し、何の「チャネル(CH)」を使ってどのような「顧客との関係(CR)」を築いて「顧客セグメント(CS)」に届けるのか、それらをどのような「コスト構造(C$)」でどのような「収益の流れ(R$)」を創っていくか、です。

これらの9つの要素をループ図を使ってデザインしていきます。

 

ビジネスモデルの各要素をシステム思考でのビジネスモデルデザインには、シートの構造上、経営デザインシートよりビジネスモデル・キャンバスの方がやりやすいと思います。

一方、価値創造メカニズム(資源・ビジネスモデル・価値の関係性、y=f(x))は、経営デザインシートの方がわかりやすいですし、知的資産経営報告書などの開示書類を作成する際には、経営デザインシートに落としてから作成する方が使いやすいかもしれません。

 

そういう意味で、ビジネスモデル・キャンバスは狭義のビジネスモデル・デザイン、経営デザインシートは広義のビジネスモデル・デザイン、といっても過言ではなさそうです。

 

お気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、経営デザインシートの各項目とビジネスモデル・キャンバスの各要素は、よく見比べると結構ドンピシャで対応していたりします。

ですので、経営デザインシートでビジネスモデル・デザインをする際には、まずビジネスモデル・キャンバスで(システム思考的に)ビジネスモデルをデザインして、それ(付箋)を経営デザインシートに貼り直せば、システム思考アプローチで経営デザインシートがデザインできるわけです。

もちろん逆に、先に経営デザインシートでざっくりと価値創造メカニズムをデザインして、ビジネスモデルの詳細はビジネスモデル・キャンバスでシステム思考的にデザインする、という使い方でもいいですね。

 

ということで、今日はこのへんで。